デザイン思考とロジカルシンキングの違いとは?使い分けのコツ

デザイン思考とロジカルシンキングの違いとは?使い分けのコツ ビジネススキル

ーこの記事で分かることー 

  1. デザイン思考とロジカルシンキングの4つの本質的な違いを理解できるようになる 
  2. 課題の性質に応じて最適な思考法を選べるようになる 
  3. デザイン思考の5段階プロセスを実務で活用できるようになる

デザイン思考とロジカルシンキングとは|それぞれの本質

ビジネスの現場で「デザイン思考」と「ロジカルシンキング」という言葉を耳にする機会が増えている。どちらも問題解決に欠かせない思考法だが、アプローチの方向性はまったく異なる。この記事では、両者の本質的な違いと使い分けのポイントを解説する。

デザイン思考の本質と誕生背景

まだ言語化されていないニーズを発見し、形にする。この一連のプロセスがデザイン思考である。米国のデザインコンサルティング会社IDEOが1990年代に体系化し、スタンフォード大学d.schoolを通じて世界に広まった。

従来の問題解決が「既知の課題に対する最適解」を求めるのに対し、デザイン思考は「まだ言語化されていない課題」を発見するところから始まる。観察と共感を通じてユーザーの行動や感情を深く理解し、そこから革新的なアイデアを導き出す。プロトタイプと検証を繰り返しながら解決策を磨き上げていくプロセスが特徴である。AppleやAirbnbといった企業がイノベーション創出に活用したことで、ビジネス界でも注目を集めるようになった。

ロジカルシンキングの本質と役割

なぜビジネスの現場で論理的思考が求められるのか。答えは、複雑な情報を整理し、説得力のある結論を導くためである。ロジカルシンキングは、根拠と結論を筋道立てて構成する思考法を指す。

この思考法はマッキンゼーやBCGといった戦略コンサルティングファームが実務で洗練させてきた。演繹法や帰納法といった論理展開の型、MECEやロジックツリーといったフレームワークが代表的なツールである。相手を納得させる資料作成やプレゼンテーションにおいて欠かせないスキルとなっている。

ロジカルシンキングの詳細な手法やトレーニング方法については、ロジカルシンキングとは?論理的思考の鍛え方と実践法で詳しく解説している。

デザイン思考とロジカルシンキングの違い|4つの比較軸

両者の違いを理解するには、複数の視点から比較することが有効である。ここでは思考の出発点、プロセスの性質、扱う課題、成果物という4つの軸で整理する。

思考の出発点と問いの立て方

「この人は何に困っているのか」と「この数字が低い原因は何か」。この問いの立て方に、両者の本質的な違いが表れている。

なぜ共感から始めるのか。ユーザー自身も気づいていない課題を発見するためである。デザイン思考ではインタビューや行動観察を通じて、本人も気づいていない不満や願望を掘り起こす。「なぜその行動をとったのか」「そのとき何を感じていたか」と深掘りしていく。一方、ロジカルシンキングは明確な問題設定から出発する。売上低下やコスト増加といった数値化できる課題に対して、原因を分析し解決策を導く。前者は「何を解決すべきか」を探索し、後者は「どう解決するか」を追求する。

プロセスの性質|反復と直線

失敗を歓迎し、試行錯誤を繰り返す点がデザイン思考の強みである。発散と収束を何度も行き来し、プロトタイプを通じて学びを得る。「早く失敗して、早く学ぶ」という姿勢がプロセスの根幹にある。

問題を定義し、分解し、検証し、結論を出す。この一連の流れがロジカルシンキングの基本構造である。各ステップの論理的整合性が求められ、効率よく結論にたどり着くことを重視する。デザイン思考が「正解のない問い」に向き合うのに対し、ロジカルシンキングは「正解に近づく道筋」を明確にする。

扱う課題の特性

どのような課題にどちらの思考法が向いているのか。答えは問題の「定義しやすさ」にある。

デザイン思考は「正解がない問題」や「問題自体が不明確な状況」で力を発揮する。新規事業開発、UX改善、サービスデザインなど、前例のない領域が該当する。ユーザーの行動を観察しても「なぜ使いにくいと感じるのか」が明確でない場合、デザイン思考のアプローチが有効である。ロジカルシンキングは「構造化できる課題」や「数値目標が明確な状況」で力を発揮する。業務効率化、原因分析、コスト削減など、既存の枠組みの中で最適解を見つける場面で威力を発揮する。

成果物と評価基準

素早く形にしてユーザーの反応を確かめるのがデザイン思考のアウトプットである。紙のモックアップ、簡易的なプロトタイプ、ストーリーボードなど、完成度よりもスピードを優先する。評価基準は「ユーザーに受け入れられるか」であり、論理的に優れていてもユーザーに響かなければ価値がない。

ロジカルシンキングのアウトプットは論理構造を持った文書や資料である。ピラミッドストラクチャーで整理された報告書、データに裏付けられた提案資料が典型例だ。評価基準は「論理的に正しいか」「根拠は確かか」であり、結論と根拠の関係が明確であることが求められる。

比較軸 デザイン思考 ロジカルシンキング
出発点 ユーザーへの共感 明確な問題設定
プロセス 反復・発散と収束 直線的・段階的
適した課題 正解がない・不明確 構造化できる・数値化できる
成果物 プロトタイプ・試作品 論理的な文書・資料
評価基準 ユーザーの反応 論理の整合性

※各思考法の一般的な特徴を整理したもの。実際の活用では状況に応じて柔軟にアレンジする。

デザイン思考の5段階プロセスと実践手法

デザイン思考を実践するには、体系化されたプロセスと具体的な手法を理解しておく必要がある。スタンフォード大学d.schoolが提唱した5段階モデル——共感、定義、発想、試作、検証——を軸に、各フェーズの実践方法を解説する。

共感フェーズ|ユーザーインサイトの発見

「そういえば、こんなとき困っていた」。ユーザー自身も言語化できていなかった不満を引き出すのが共感フェーズの目的である。

インタビューでは「なぜ」を繰り返し問いかける。「このサービスを使ったきっかけは?」「そのとき、どんな気持ちでしたか?」と深掘りしていく。行動観察では、ユーザーが実際にサービスを使う場面を観察し、言葉にならない行動パターンを記録する。共感マップは、ユーザーが「見ていること」「聞いていること」「考えていること」「感じていること」を4象限で整理するツールである。ペルソナは理想的なユーザー像を具体化したもので、年齢や職業だけでなく価値観や行動パターンまで詳細に設定する。

定義・発想フェーズ|課題設定とアイデア創出

本当に解決すべき課題を特定する点で、定義フェーズは成否を分ける段階となる。共感フェーズで得たインサイトを「○○というユーザーは、○○が必要である。なぜなら○○だから」という形式で言語化する。この課題定義文をPOV(Point of View)と呼ぶ。

発想フェーズではブレインストーミングが中心となる。批判を禁止し、質より量を重視するルールの下、自由にアイデアを出し合う。「どうすれば○○できるか」というHow Might We形式の問いを設定すると、発想が広がりやすい。一人あたり10個以上のアイデアを出すことを目標にし、付箋に書き出してグルーピングしていく。

試作・検証フェーズ|プロトタイピングの実践

なぜ完成度の低い試作品で検証を行うのか。答えは、早い段階でユーザーの反応を得るためである。時間とコストをかけて完成品を作ってから「実は求められていなかった」と分かるリスクを避ける。

プロトタイプは紙やダンボールで作る簡易モックアップから始める。アプリであれば画面遷移を紙に描いてユーザーに見せる。サービスであればロールプレイでシミュレーションする。ポイントは「触れる形」にすることで、言葉だけでは伝わらないアイデアの本質をユーザーに体験してもらう。検証では「何がわかりにくかったか」「どこで迷ったか」といったフィードバックを収集し、次の改善に活かす。このサイクルを短期間で何度も回すことが、デザイン思考の実践の鍵となる。

場面別の使い分けガイド

どちらの思考法を使うべきかは、直面している課題の性質によって決まる。ここでは具体的な場面ごとの使い分けと、両者を統合するアプローチを紹介する。

デザイン思考が成果を上げる場面

前例のない課題に挑む際に力を発揮するのがデザイン思考である。具体的には以下のような場面が該当する。

新規事業やサービスの企画段階では、顧客の潜在ニーズを発見することが鍵となる。既存の市場調査では見えてこない「言語化されていない不満」を掘り起こす必要がある。UX改善やプロダクト開発でも、ユーザーの行動観察から得られるインサイトが革新的なアイデアにつながる。顧客体験の全体像を見直すカスタマージャーニーマップの作成、既存サービスのリデザイン、組織の働き方改革といったテーマでもデザイン思考のアプローチが有効である。

ロジカルシンキングを優先すべき場面

数値目標が明確で、構造化できる課題——こうした場面でロジカルシンキングは真価を発揮する。

業務プロセスの改善では、現状の非効率を要素分解し、ボトルネックを特定することが出発点となる。経営判断や投資判断など、複数の選択肢を比較検討する場面でも論理的な分析が欠かせない。プレゼンテーションや報告書作成においては、結論と根拠を明確に構造化することで説得力が生まれる。原因分析やコスト削減策の立案など、既存の枠組みの中で最適解を見つける場面全般に向いている。

ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの使い分けについては、クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いとは?使い分けのコツも参考にしてほしい。

両者を統合するアプローチ

発散と収束を行き来する。この往復運動が、複雑な課題を解決する際の強力なアプローチとなる。

実務では「デザイン思考で課題を発見し、ロジカルシンキングで解決策を精緻化する」という流れが有効である。たとえば新規事業開発では、まずデザイン思考で顧客インサイトを掘り起こし、有望なアイデアを発散させる。次にロジカルシンキングで市場規模や収益性を分析し、事業計画に落とし込む。プロトタイプの検証結果を論理的に整理し、次の意思決定につなげる。どちらか一方に偏るのではなく、フェーズに応じて使い分けることで、創造性と論理性を両立できる。

ビジネスケースで見るデザイン思考の実践

理論を理解するだけでなく、実際のビジネス場面でどのように活用するかをイメージすることが大切である。ここでは2つのケースを通じて、デザイン思考の実践的な使い方を見ていく。

顧客体験改善プロジェクトでの活用

顧客の不満を可視化し、改善の優先順位を明確にする点で、デザイン思考は顧客体験改善に向いている。

状況設定: ある小売企業が、ECサイトのカート離脱率の高さに悩んでいた。データ分析では「決済画面での離脱が多い」ことはわかっていたが、具体的な原因は特定できていなかった。

共感・定義フェーズ: 実際の顧客5名にインタビューを実施し、決済時の体験を詳しく聞き取った。「配送日の選択肢が少なくて不便」「ポイント利用の方法がわかりにくい」「合計金額の内訳が見えない」といった具体的な不満が浮かび上がった。これらの声をもとに「ユーザーは決済前に全体像を把握したい。なぜなら想定外の追加費用を避けたいから」という課題定義を行った。

発想・試作フェーズ: チームで改善アイデアを発散させ、「決済前の確認画面で内訳を明示する」「配送日のカレンダー表示を導入する」など複数の案を抽出。紙のプロトタイプを作成し、顧客3名に見せてフィードバックを得た。

検証・実装フェーズ: フィードバックを反映した改善案をA/Bテストで検証。確認画面の改善により離脱率が改善傾向を示した。

結果: データ分析だけでは見えなかった「顧客が本当に困っていたこと」を発見し、具体的な改善につなげることができた。

※本事例はデザイン思考の活用イメージを示すための想定シナリオです。

新規サービス開発での活用

ゼロからサービスを生み出すとき、何から始めるべきか。答えは「顧客を深く理解すること」である。

状況設定: あるBtoB企業が、中小企業向けの新しいクラウドサービスを企画することになった。既存の競合サービスとの差別化が課題となっていた。

共感フェーズ: 潜在顧客である中小企業の経営者・担当者10名にインタビューを実施。「機能は充実しているが、導入時のサポートが手薄で使いこなせない」「マニュアルを読む時間がない」「同じ業種の成功事例を知りたい」という声が多く聞かれた。現場を訪問し、実際の業務フローを観察したところ、ITリテラシーの差が大きいことも判明した。

定義・発想フェーズ: 「中小企業の担当者は、導入後すぐに成果を実感したい。なぜなら経営者に導入効果を説明する必要があるから」という課題定義を設定。「業種別のテンプレート提供」「導入後3か月の伴走支援」「同業他社の事例共有コミュニティ」といったアイデアを発散させた。

試作・検証フェーズ: 伴走支援サービスのプロトタイプとして、3社にトライアル導入を実施。週1回のオンラインサポートと業種別の設定テンプレートを提供した。2か月後のヒアリングで「初月から成果が見えた」「経営者への報告がしやすくなった」という評価を得た。

結果: 機能面での差別化ではなく「導入後の体験」を軸にした新サービスの方向性が固まり、本格開発に進むことができた。

※本事例はデザイン思考の活用イメージを示すための想定シナリオです。

よくある質問

デザイン思考は独学で身につけられますか?

基本的な知識は書籍やオンライン講座で学べるが、実践を通じた習得が欠かせないスキルである。

デザイン思考の核心は「ユーザーへの共感」と「試行錯誤の姿勢」にある。これらは座学だけでは身につきにくい。実際にインタビューを行い、プロトタイプを作り、フィードバックを受けるという一連の体験が大切だ。社内の小さな改善テーマから始めるか、ワークショップに参加して実践の機会を作ることを推奨する。

デザイン思考はどのような業種・職種で活用できますか?

製造業からサービス業まで幅広い業種で活用されており、職種もデザイナーに限らない。

商品開発やマーケティング部門はもちろん、人事部門での採用プロセス改善、経理部門での社内サービス改善など、「ユーザー」を設定できる場面であればどこでも応用できる。近年はDX推進や組織変革のプロジェクトでも活用されている。ポイントは「誰のための課題解決か」を明確にすることである。

デザイン思考とアジャイル開発の関係を教えてください

デザイン思考とアジャイル開発は相性が良く、組み合わせて活用されるケースが多い。

デザイン思考が「何を作るべきか」を探索するプロセスであるのに対し、アジャイル開発は「どう作るか」を反復的に実行するプロセスである。デザイン思考で顧客ニーズを発見し、プロトタイプで方向性を検証した後、アジャイル開発で本格的な実装を進めるという流れが一般的だ。どちらも「早く試して学ぶ」という姿勢を共有している。

ロジカルシンキングが苦手でもデザイン思考は使えますか?

共感や観察といった直感的なアプローチが中心であり、論理的な思考が苦手でも取り組みやすい。

デザイン思考はフレームワークに縛られない柔軟さが特徴だ。ただし、発想したアイデアを整理したり、組織内で提案を通したりする場面では論理的な説明が求められる。デザイン思考を入り口として、必要に応じてロジカルシンキングのスキルを補強していく流れが現実的である。

デザイン思考を社内に導入するにはどうすればよいですか?

小規模なパイロットプロジェクトから始め、成功体験を積み重ねるアプローチが効果的である。

いきなり全社展開を目指すと抵抗が生まれやすい。まずは1つのチームや1つのテーマでワークショップを実施し、具体的な成果を出す。その成果を社内で共有し、「自分たちの部門でも試してみたい」という声を集めていく。経営層の理解を得るためには、デザイン思考がもたらすビジネス成果を数値で示すことも大切である。

まとめ

デザイン思考とロジカルシンキングは、どちらか一方を選ぶものではなく、課題の性質に応じて使い分け、組み合わせることで最大の効果を発揮する。ユーザーの潜在ニーズを発見したい場面では共感から始まるデザイン思考を、明確な課題を効率的に解決したい場面では論理的な分析を軸としたロジカルシンキングを選択するとよい。

まずは2〜4週間、身近な改善テーマでデザイン思考の5段階プロセスを一通り体験してみることを推奨する。同僚や顧客に15分のインタビューを実施し、紙のプロトタイプを作成し、フィードバックを得るという小さなサイクルを回す。この実践を通じて、ユーザー視点で課題を捉える感覚が身についていく。

具体的な次のステップとして、デザイン思考の入門書を1冊読む、社内の小さな改善テーマでインタビューを2〜3件実施する、そして紙のプロトタイプを作成して同僚に見せてみることから着手するとよい。

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