ー この記事の要旨 ー
- DESC法は、自分の意見を伝えながら相手も尊重するアサーティブコミュニケーションの実践フレームワークで、4つのステップで構成されています。
- 本記事では、Describe(描写)・Explain(説明)・Suggest(提案)・Choose(選択)の各ステップを具体例とともに解説し、ビジネスシーン別の活用法を紹介します。
- 上司への提案や同僚への依頼など、職場のさまざまな場面で建設的な対話を実現し、信頼関係を築きながら問題解決を進める方法が身につきます。
DESC法とは?アサーティブコミュニケーションの基本フレームワーク
DESC法とは、自分の意見や気持ちを率直に伝えながら、相手の立場も尊重するアサーティブコミュニケーションの実践フレームワークです。
「言いたいことがあるのに、相手の反応が気になって言い出せない」「伝えたら角が立ちそうで、結局我慢してしまう」。職場でこうした経験をしたことはないでしょうか。自己主張と相手への配慮を両立させるのは簡単ではありません。ここで役立つのがDESC法です。
アサーション(自分も相手も大切にする自己表現)の考え方を、誰でも実践できる4つのステップに落とし込んだのがこの手法の強みといえます。
アサーションの3タイプ(アサーティブ、ノンアサーティブ、アグレッシブ)については関連記事「アサーションとは?3つのタイプと職場での実践ポイント」で詳しく解説しています。本記事ではDESC法の具体的な使い方に焦点を当てます。
DESC法の意味と定義
DESCは、Describe(描写)、Explain(説明)、Suggest(提案)、Choose(選択)の頭文字を取った略語です。1970年代にアサーショントレーニングの研究者シャロン・アンソニー・バウアーとゴードン・バウアーが提唱しました。この順番で話を組み立てることで、感情的にならず、建設的な対話を進められます。
ポイントは、最初に客観的な事実を共有し、次に自分の気持ちを伝え、そのうえで解決策を提案し、最後に相手の反応に応じた選択肢を示すという流れにあります。この構造があるからこそ、一方的な主張や攻撃的な物言いを避けられるのです。
4つのステップの概要
DESC法の4ステップを簡潔にまとめると、次のとおりです。
Describe(描写)——状況や事実を客観的に伝える Explain(説明)——自分の感情や考えを「私は〜」の形で表現する Suggest(提案)——具体的な解決策や代替案を示す Choose(選択)——相手の反応に応じた選択肢を用意する
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
DESC法の4ステップを詳しく解説
DESC法を正しく使うには、Describe・Explain・Suggest・Chooseの各ステップで「何を伝えるか」を明確に区別することがカギです。
Describe(描写):客観的に状況を伝える
Describeでは、主観や評価を交えず、事実だけを伝えます。「いつ」「どこで」「何が起きたか」を具体的に描写することで、相手と同じ認識を持つ土台をつくります。
たとえば「最近、報告が遅い」ではなく、「先週の月曜と水曜、進捗報告が17時の締め切りを過ぎて届きました」と伝えます。数字や日時を入れることで、相手も「たしかにそうだった」と納得しやすくなります。
ここで「いつも遅い」「ちゃんとやってくれない」といった評価的な言葉を使うと、相手は責められていると感じ、防御的になりがちです。事実と解釈を分けることが、このステップの要点です。
Explain(説明):自分の気持ちや考えを表現する
Explainでは、Describeで伝えた状況に対して、自分がどう感じているか、どう考えているかを説明します。「私は〜と感じています」「私としては〜と考えています」という形で伝えるのが基本です。
「報告が遅れると、私は全体の進捗が把握できず不安になります」「スケジュール調整が難しくなり、困っています」といった表現になります。
注目すべきは、ここでも相手を責める言い方を避ける点です。「あなたのせいで困っている」ではなく、「私は困っている」と自分を主語にすることで、相手の反発を招きにくくなります。
Suggest(提案):具体的な解決策を示す
Suggestでは、状況を改善するための具体的な提案を行います。「〜していただけませんか」「〜という方法はいかがでしょうか」といった依頼・提案の形を取ります。
「報告は15時までに送っていただけると助かります」「難しければ、遅れそうな場合は事前に一報いただけませんか」というように、相手が取れる具体的な行動を示します。
実務では、1つの提案だけでなく、代替案を併せて示すと相手が選びやすくなります。「AかBのどちらかでお願いできればと思います」という形です。
Choose(選択):相手の反応に応じた選択肢を用意する
Chooseでは、相手が提案を受け入れた場合と受け入れなかった場合、それぞれの結果や対応を伝えます。「もし〜していただければ、〜できます」「もし難しい場合は、〜という方法も考えられます」といった形です。
「15時までにいただければ、当日中に確認してフィードバックできます」「難しければ、翌日の午前中にまとめて確認する形でも構いません」というように、相手に選択の余地を残します。
ここがポイントです。Chooseは脅しや最後通告ではなく、相手に判断をゆだねるステップです。選択肢を示すことで、相手の自律性を尊重しながら合意形成を目指せます。
DESC法が役立つビジネスシーン
DESC法は、上司・同僚・部下など、相手や状況を問わず幅広いビジネスシーンで活用できます。
上司への提案・相談
上司に対して意見を述べるのは、多くの人にとってハードルが高い場面です。「生意気だと思われないか」「否定されたらどうしよう」という不安から、言いたいことを飲み込んでしまうケースは珍しくありません。
DESC法を使えば、事実ベースで話を始められるため、感情的な衝突を避けやすくなります。たとえば新しいツールの導入を提案したい場合、「現在のツールでは週に3時間ほど手作業が発生しています(D)。この時間を他の業務に充てたいと考えています(E)。ツールAの導入を検討いただけないでしょうか(S)。もしコストが課題であれば、まずは無料トライアルから試す方法もあります(C)」という流れで伝えられます。
心理的安全性(チーム内で自分の意見を安心して発言できる状態)が確保されていない職場でも、DESC法の構造に沿って話すことで、建設的な提案として受け止めてもらいやすくなります。
同僚への依頼・協力要請
同僚への依頼は、上下関係がない分、強制力がありません。だからこそ、相手が「協力したい」と思える伝え方が求められます。
「来週の資料作成、手伝ってもらえない?」と漠然と頼むより、「来週のプレゼン資料、データ集計の部分で3時間ほど時間がかかりそうです(D)。自分一人だと締め切りに間に合うか不安で(E)。グラフ作成の部分だけ手伝ってもらえると助かります(S)。もし今週が忙しければ、来週月曜でも大丈夫です(C)」と伝える方が、相手も判断しやすくなります。
部下へのフィードバック
部下への指摘やフィードバックは、伝え方を誤ると信頼関係を損なうリスクがあります。DESC法を使えば、事実と感情を分けて伝えられるため、相手が「責められている」と感じにくくなります。
「最近たるんでいる」ではなく、「先週の会議で、発言が一度もありませんでした(D)。チームとして意見を聞きたいと思っています(E)。次回は一つでも意見を出してもらえると嬉しいです(S)。発言しづらい理由があれば、個別に話を聞かせてください(C)」という形です。
実は、フィードバックの場面でChooseを入れることで、一方的な指示ではなく対話の姿勢を示せるのです。
DESC法を使った伝え方の具体例
DESC法の4ステップを通して使うとどうなるか、具体的なケースで見ていきましょう。
会議でスケジュール変更を提案するケース
※本事例はDESC法の活用イメージを示すための想定シナリオです。
企画部門の中堅社員である山田さんは、新規プロジェクトのスケジュールに無理があると感じていました。上司の鈴木課長に対して、スケジュール変更を提案する場面です。
Describe(描写) 「現在の計画では、デザイン確定から開発完了まで2週間となっています。過去3件の類似プロジェクトでは、この工程に平均3週間かかっていました」
Explain(説明) 「このままだと品質を担保できるか不安があります。手戻りが発生すると、かえって全体の遅延を招くのではと懸念しています」
Suggest(提案) 「開発期間を1週間延長し、3週間に変更することを提案します。あるいは、機能を絞って最初のリリース範囲を縮小する方法もあります」
Choose(選択) 「もし延長が難しい場合は、リリース範囲の縮小案で進めます。どちらがよいか、ご判断いただけますか」
この流れで伝えることで、山田さんは感情的にならず、データに基づいた提案ができました。鈴木課長も選択肢を示されたことで、「延長は難しいが、範囲縮小なら検討できる」と建設的な回答ができたのです。
業界・職種別の活用例
IT部門でのシステム改修依頼 「現行システムでは月次処理に平均8時間かかっています(D)。この時間を削減できれば、分析業務に注力できます(E)。自動化ツールの導入を検討いただけませんか(S)。予算が厳しければ、まずは一部機能だけの自動化でも構いません(C)」。IT部門ではSQLやRPAなどの具体的なツール名を入れると説得力が増します。
経理部門での締め切り調整 「請求書の提出期限が毎月25日ですが、先月は28日到着が3件ありました(D)。月末処理に支障が出るため困っています(E)。24日までに提出いただくか、遅れる場合は事前連絡をいただけないでしょうか(S)。難しい部署があれば、個別に調整します(C)」。簿記や会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)の処理フローを踏まえた説明が活かせます。
DESC法を実践するコツ
DESC法で成果を出すコツは、事前準備、Iメッセージの活用、相手視点での選択肢設計の3点です。
事前準備で伝える内容を整理する
DESC法は即興で使うより、事前に4ステップの内容を整理しておく方が成果が出やすい手法です。特にDescribeで使う事実やデータは、あらかじめ確認しておきましょう。
見落としがちですが、「何を伝えるか」だけでなく「何を伝えないか」も決めておくと、話が脱線しにくくなります。伝えたいことを1つに絞り、その1点についてDESCの流れを組み立てるのが基本です。
Iメッセージを意識する
Iメッセージとは、「私は〜」を主語にした表現のことです。「あなたは〜だ」というYouメッセージは相手を責める印象を与えやすいのに対し、Iメッセージは自分の感情や考えを伝える形になるため、相手の防御反応を和らげます。
Explainのステップでは特にIメッセージが威力を発揮します。「(あなたが)報告しないから困る」ではなく、「(私は)報告がないと状況がわからず不安になる」と伝える形です。
大切なのは、Iメッセージを使っても、語尾が命令調になっては効果が薄れる点です。「私は困るから、ちゃんとやって」ではなく、「私は困っているので、〜していただけると助かります」という依頼形にしましょう。
相手の立場を想像して選択肢を考える
Chooseで提示する選択肢は、相手にとって現実的に選べるものでなければ意味がありません。自分にとって都合の良い選択肢だけを並べると、実質的に選択の余地がなく、押しつけになってしまいます。
相手が「どちらも選べる」「どちらを選んでも損はしない」と感じられる選択肢を用意することで、合意形成がスムーズになります。「もし〜なら、〜という方法もあります」と代替案を示す姿勢が、相手の納得感を高めるのです。
DESC法でよくある失敗と対処法
DESC法を使っても思うような結果が得られない場合、Describe・Suggest・Chooseのいずれかでつまずいていることが多いです。
Describeで主観や評価を混ぜてしまう
よくある失敗の一つ目は、Describeの段階で「いつも」「ちゃんと」「ちょっと」といった主観的な言葉を使ってしまうケースです。
「いつも遅刻する」と言われた相手は、「いつもじゃない」と反論したくなります。「先週は月曜と木曜に10分遅れて出社していました」と具体的に伝えれば、事実として受け止めてもらえます。
対処法として、Describeでは数字・日時・回数など、誰が見ても同じ認識になる情報だけを使うよう心がけましょう。
Suggestで一方的な要求になってしまう
二つ目の失敗は、Suggestが「〜してください」という命令形になってしまうパターンです。提案のつもりが、相手には要求や指示として受け取られてしまいます。
「〜していただけませんか」「〜という方法はいかがでしょうか」といった依頼・提案形を使うことで、相手に選択の余地を残せます。また、1つの提案だけでなく代替案を併記すると、押しつけ感が薄れます。
Chooseを省略してしまう
三つ目は、Chooseを省略してしまう失敗です。DescribeからSuggestまで伝えて終わりにすると、相手は「で、どうすればいいの?」「断ったらどうなるの?」と判断に迷います。
Chooseは「相手に判断をゆだねる」ステップです。「もし〜なら、〜できます」「もし難しければ、〜という方法もあります」と、相手の選択に応じた結果を伝えることで、対話が前に進みます。
ここが落とし穴で、Chooseを脅しのように使ってしまうと逆効果です。「やらないなら自分でやりますけど」ではなく、「難しければ別の方法を一緒に考えましょう」と協力姿勢を示すことが大切です。
よくある質問(FAQ)
DESC法とPREP法はどう使い分ける?
DESC法は合意形成や依頼・交渉向き、PREP法は情報伝達やプレゼン向きです。
PREP法(Point→Reason→Example→Point)は、結論を先に伝えて説得力を高める構成です。報告やプレゼンなど、相手に情報を「伝える」場面で力を発揮します。一方、DESC法は相手の反応を想定し、選択肢を示すステップがあるため、依頼や交渉など「合意を得る」場面で使えます。
使い分けの目安として、一方向の情報伝達ならPREP法、双方向の対話ならDESC法と覚えておくと判断しやすくなります。
DESC法は上司への提案にも使える?
上司への提案や相談にもDESC法は十分に活用できます。
上司に対して意見を述べることに抵抗を感じる人は少なくありません。DESC法を使えば、感情ではなく事実から話を始められるため、「生意気だ」と思われるリスクを減らせます。また、Chooseで選択肢を示すことで、最終判断を上司にゆだねる形になり、越権行為と受け取られにくくなります。
上司への提案では、Describeで使うデータや事実を事前にしっかり準備しておくと、説得力が増します。
DESC法がうまくいかないときの原因は?
Describeでの事実と評価の混同、Suggestでの命令形、Chooseの省略が主な原因です。
特に多いのが、Describeで「いつも」「ちゃんと」といった主観的な言葉を使ってしまうケースです。相手は事実ではなく「決めつけ」と感じ、防御的になります。また、Suggestが「〜してください」という命令形だと、提案ではなく要求として受け取られます。
4ステップのどこでつまずいているかを振り返り、一つずつ修正していくことで改善できます。
アサーティブな伝え方を練習する方法は?
日常の小さな場面でDESC法を使うことから始めてみてください。
いきなり重要な交渉で使うのではなく、「会議の時間を変更してほしい」「資料の修正をお願いしたい」といった負荷の低い場面で練習するのが取り組みやすいでしょう。4ステップを紙に書き出してから話す、という方法も有効です。
慣れてきたら、ロールプレイングで練習するのも一つの手です。同僚や友人に相手役を頼み、フィードバックをもらうことで、自分の伝え方の癖に気づけます。
まとめ
DESC法で成果を出すポイントは、山田さんのケースが示すように、客観的な事実から話を始め、自分の気持ちをIメッセージで伝え、相手に選択肢を示すという流れにあります。この構造があるからこそ、一方的な主張にならず、建設的な対話が可能になります。
初めの1週間は、1日1回、小さな依頼やお願いの場面でDESCの4ステップを意識して話してみてください。紙に書き出してから伝えるだけでも、伝わり方は大きく変わります。
小さな実践を積み重ねることで、上司への提案も同僚への依頼も、スムーズに進められるようになります。
