ナレッジマネジメントとは?基本からSECIモデルまで解説

ナレッジマネジメントとは?基本からSECIモデルまで解説 組織開発

ー この記事の要旨 ー

  1. ナレッジマネジメントとは、組織内に散在する知識やノウハウを体系的に収集・共有・活用し、業務効率化や競争力強化につなげる経営手法です。
  2. 本記事では、暗黙知と形式知の違いからSECIモデルの実務活用法、導入ステップ、よくある失敗パターンまでを網羅的に解説します。
  3. 属人化の解消や新人育成の効率化など、明日から取り組める具体的なアクションも含め、ナレッジマネジメントの全体像を把握できる内容となっています。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントとは、組織内の知識やノウハウを体系的に収集・蓄積・共有し、業務や経営に活かす手法です。

ベテラン社員だけが知っている営業トークの型、トラブル発生時の判断基準、効率的な作業手順。こうした「その人の頭の中にしかない知識」は、放置すれば退職や異動とともに失われてしまいます。ナレッジマネジメントは、こうした知識を組織の資産として可視化し、誰もが活用できる状態にすることを目指します。

ここがポイントです。ナレッジマネジメントは単なる情報共有ツールの導入ではありません。知識を「個人の財産」から「組織の共有財産」へと転換する仕組みづくりそのものを指します。

暗黙知と形式知の違い

ナレッジマネジメントを理解するうえで欠かせない概念が「暗黙知」と「形式知」です。

暗黙知とは、言葉や文書で表現しにくい、経験や勘に基づく知識を指します。たとえば、熟練の営業担当者が商談中に「このタイミングでクロージングに入るべきだ」と判断する感覚や、製造現場で「この音がしたら機械の調子が悪い」と気づく勘がこれにあたります。本人も言語化が難しいため、OJTで「見て覚える」形でしか伝わらないケースが多いのが実情です。

一方、形式知とは、マニュアル、報告書、データベースなど、言葉や図表で明確に表現された知識です。「契約書の作成手順」「クレーム対応のフロー図」のように、誰が見ても同じ内容を理解できる形になっています。

両者の違いを意識することで、「何をどのように共有すべきか」が明確になります。

ナレッジマネジメントの目的

「情報を共有する」だけがナレッジマネジメントの目的ではありません。

最終的なゴールは、組織全体の知識レベルを底上げし、業務品質の向上、意思決定の迅速化、新たな価値の創出を実現することです。個人が持つ優れた知見を組織全体で活用できれば、同じ失敗を繰り返すリスクが減り、成功パターンを横展開できます。

見落としがちですが、ナレッジマネジメントには「知識を使って新しい知識を生み出す」という側面もあります。既存のノウハウを組み合わせることで、これまでにない解決策やアイデアが生まれる可能性が広がります。

ナレッジマネジメントが注目される背景

ナレッジマネジメントへの関心が高まっている背景には、労働環境の構造的な変化と、企業に求められる競争力の質的変化があります。

経営学者ピーター・ドラッカーは「知識労働者」という概念を提唱し、現代の企業価値の源泉は物的資産から知識へと移行していると指摘しました。この流れは加速しており、知識をいかに組織的に活用するかが企業の命運を左右する時代になっています。

ベテラン社員の退職と属人化リスク

「あの人に聞かないとわからない」という状態は、多くの組織で発生しています。

団塊世代の大量退職、いわゆる2025年問題が現実のものとなり、長年の経験で培われた知識やノウハウが急速に失われるリスクが顕在化しています。営業部門の顧客対応のコツ、製造現場の品質管理の勘所、バックオフィスの例外処理の判断基準。これらは文書化されていなければ、担当者の退職とともに消えてしまいます。

属人化が進んだ組織では、特定の担当者が休むだけで業務が滞り、異動や退職があれば大きな混乱が生じます。こうしたリスクへの対応として、ナレッジマネジメントの必要性が高まっています。

DX推進と働き方改革の流れ

リモートワークの普及により、「隣の席の先輩にちょっと聞く」ができなくなった職場は少なくありません。

DX推進の文脈でも、業務プロセスのデジタル化と並行して、知識の可視化・共有が課題として浮上しています。紙の引き継ぎ資料やベテランの口伝えに頼っていた組織は、オンライン環境への移行で知識伝達の経路が途切れがちです。

働き方改革により限られた時間で成果を出すことが求められるなか、「同じことを何度も調べる」「同じ質問に何度も答える」といった非効率を解消する手段としても、ナレッジマネジメントが注目されています。

SECIモデルの基本と活用

SECIモデルとは、一橋大学の野中郁次郎教授が提唱した、組織における知識創造のプロセスを4段階で説明するフレームワークです。

本記事ではSECIモデルの概要と実務での活用ポイントに焦点を当てます。各プロセスの詳細は関連記事『ナレッジマネジメントとは?』で解説しています。

SECIモデルの4つのプロセス

SECIモデルは、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の4段階で構成されています。

共同化は、暗黙知から暗黙知への変換です。先輩の仕事ぶりを見て学ぶ、現場で一緒に作業しながらコツを体得するといった、体験の共有を通じた知識伝達がこれにあたります。

表出化は、暗黙知を形式知に変換するプロセスです。「なんとなくうまくいっている」ことを言葉や図で説明し、マニュアルや事例集として文書化します。

連結化は、形式知同士を組み合わせて新たな形式知を生み出す段階です。複数の部署のノウハウを統合したベストプラクティス集の作成などが該当します。

内面化は、形式知を暗黙知として自分のものにするプロセスです。マニュアルを読んで実践し、自分なりのやり方として身につける段階です。

この4つのプロセスがスパイラル状に繰り返されることで、組織全体の知識が深化・拡大していきます。

実務でSECIモデルを回すコツ

実は、多くの組織ではSECIモデルの「共同化」と「内面化」は自然に起きています。問題は「表出化」と「連結化」が滞りやすい点です。

表出化を促進するには、知識を言語化する機会を意図的に設けることが大切です。週次の振り返りミーティングで「今週うまくいったこと」を共有する、成功事例をテンプレートに沿って記録するといった仕組みが役立ちます。「うまくいった理由を3つ挙げるとしたら?」のように、具体的な問いを用意すると言語化が進みやすくなります。

連結化を進めるには、部署をまたいだ情報交換の場を設けることがポイントです。四半期に一度の事例共有会、社内Wikiへのナレッジ投稿ルールの整備など、知識を統合する仕組みを設計してみてください。

ナレッジマネジメント導入の5つのメリット

ナレッジマネジメントを導入するメリットは、業務効率化、人材育成の加速、属人化の解消、競争力強化、イノベーション創出の5点に集約されます。それぞれ詳しく見ていきます。

業務効率化と生産性向上

過去に解決済みの問題に対して、毎回ゼロから調べ直している。そんな非効率が解消されます。

FAQやナレッジベースが整備されていれば、同じ質問への対応時間が大幅に短縮されます。経理部門でよくある問い合わせ、IT部門へのシステムトラブル報告など、定型的な対応はナレッジ化の効果が出やすい領域です。

検索性の高いナレッジベースがあれば、「あの資料どこにあったかな」と探す時間も減ります。

人材育成の加速

新人が一人前になるまでの期間を短縮できます。

従来は「先輩の背中を見て覚える」しかなかったノウハウが言語化されていれば、新人は自分のペースで学習を進められます。OJTだけに頼る場合、教える側の力量や余裕によって育成スピードにばらつきが出がちです。ナレッジが整備されていれば、教育の質を一定水準に保てます。

IT部門であれば、よくあるトラブルシューティング手順、バックオフィスであれば、月次決算の作業手順といったナレッジは、新人研修の効率を大きく左右します。

属人化の解消と標準化

「あの人がいないと回らない」というリスクを軽減できます。

特定の担当者だけが知っている業務手順や判断基準を文書化し、共有することで、誰でも同じ品質で業務を遂行できる状態に近づきます。顧客対応の品質標準化、引き継ぎ時の混乱防止といった効果が期待できます。

注目すべきは、属人化の解消は「ベテランの存在価値を下げる」ことではない点です。むしろ、ベテランの知見が組織全体に広がることで、その価値が何倍にも増幅されます。

組織の競争力強化

蓄積されたナレッジは、他社には真似できない競争優位の源泉になります。

製品やサービスは模倣されやすいですが、組織に根づいたノウハウ、暗黙知の共有文化、ナレッジ活用の仕組みは簡単にはコピーできません。顧客対応で培った知見、製品開発で得た失敗事例と成功パターン。これらが組織的に蓄積・活用されていれば、競合との差別化につながります。

イノベーション創出の土台づくり

異なる領域の知識が組み合わさることで、新たなアイデアが生まれやすくなります。

営業部門のお客様の声と、開発部門の技術情報が連結されれば、新商品のヒントが見つかるかもしれません。ナレッジマネジメントは「既存業務の効率化」だけでなく、「新しい価値の創出」にも寄与する点を見落とさないでください。

ナレッジマネジメントの実践手順

ナレッジマネジメントを成功させるには、現状把握、ナレッジの収集・整理、共有の仕組みづくりという3つのステップを踏むことがポイントです。

※本事例はナレッジマネジメント導入の活用イメージを示すための想定シナリオです。

製造業A社のバックオフィス部門では、経理担当者が1名退職することになり、引き継ぎの難航が予想されました。担当者にヒアリングしたところ、「月次決算の際に例外処理が20種類以上あり、すべて自分の頭の中にある」という状況が判明。そこで、退職までの3か月間で例外処理のパターンを洗い出し、判断基準をフローチャート化するプロジェクトを発足させました。結果、後任者は1か月目から大きなミスなく月次決算を完了できるようになり、問い合わせ対応も半減しました。

現状把握と目的の明確化

まず取り組むべきは、「なぜナレッジマネジメントが必要か」を最初に定めることです。

属人化の解消が目的なのか、新人育成の効率化なのか、部署間連携の強化なのか。目的によって収集すべきナレッジの種類や、構築すべき仕組みが変わってきます。

現状把握では、「どの業務で属人化が進んでいるか」「どんな情報が繰り返し求められているか」を洗い出します。アンケートやヒアリングで「困っていること」を集めると、優先的に取り組むべき領域が見えてきます。

ナレッジの収集と整理

目的が明確になったら、対象となるナレッジを収集・整理します。

暗黙知を形式知に変換する「表出化」のプロセスです。ヒアリング、業務の棚卸し、成功事例のテンプレート化など、知識を引き出す手法を組み合わせます。ここで大切なのは、完璧を求めすぎないことです。最初から網羅的なマニュアルを作ろうとすると、プロジェクトが頓挫しがちです。

IT部門であれば、頻出するシステムトラブルと対処法を10件リストアップする、といった小さな単位から始めることを心がけてみてください。

共有の仕組みづくりと運用

収集したナレッジを、実際に活用される状態にするための仕組みを整備します。

社内Wiki、グループウェア、FAQシステムなど、組織の規模や文化に合ったツールを選定します。正直なところ、ツール選びよりも「使われる仕組みにする」ことのほうが難しい部分です。

運用で意識すべき点は、ナレッジの更新・追加を日常業務に組み込むことです。「週に1件はナレッジを登録する」「月次で古いナレッジをレビューする」といったルールを設け、ナレッジベースが陳腐化しないようにします。

ナレッジマネジメントでよくある失敗と対策

ナレッジマネジメントの導入で陥りやすい失敗は、ツール導入だけで終わるケースと、共有文化が根付かないケースの2パターンです。

ツール導入だけで終わるケース

社内Wikiを導入したものの、誰も投稿しない。そんな状況は珍しくありません。

ここが落とし穴で、ツールはあくまで「箱」に過ぎません。何を入れるか、誰がどう使うかを設計しなければ、空の箱のまま放置されます。「とりあえずツールを入れれば何とかなる」という発想では、高確率で形骸化します。

対策としては、ツール導入と並行して「最初に入れるコンテンツ」を用意することです。FAQを50件登録してから公開する、部門ごとにナレッジ担当者を任命するといった施策が有効です。

共有文化が根付かないケース

「自分のノウハウを共有すると、自分の価値がなくなる」と感じる社員がいると、ナレッジ共有は進みません。

心理学でいう「心理的安全性」(チーム内で自分の意見を安心して発言できる状態)が確保されていない組織では、知識の出し惜しみが起きやすい傾向があります。ナレッジ共有を評価制度に組み込む、共有した社員を表彰するといった仕組みで、「共有することが得になる」状態を作ることがポイントです。

また、経営層や管理職が率先してナレッジを共有する姿勢を見せることも、文化醸成には欠かせません。

よくある質問(FAQ)

ナレッジマネジメントとSECIモデルの関係は?

SECIモデルはナレッジマネジメントを実践する際の理論的な基盤です。

ナレッジマネジメントが「何をするか」を示すのに対し、SECIモデルは「知識がどのように変換・創造されるか」のメカニズムを説明します。SECIモデルの4プロセスを意識することで、ナレッジマネジメントの施策をより効果的に設計できます。

たとえば、「表出化」が弱いと判断すれば、言語化を促す仕組みを強化するといった具体策につなげられます。

暗黙知を形式知に変換する具体的な方法は?

熟練者へのインタビューと、その内容のテンプレート化が基本です。

「どんな状況で、どんな判断をしているか」を具体的に聞き出し、フローチャートやチェックリストの形に整理します。動画撮影も有効な手段で、作業の手順や判断のポイントを映像で記録し、後から言語化を加える方法もあります。

ポイントは「なぜそうするのか」の理由まで引き出すことです。手順だけでなく判断基準を言語化することで、応用が利くナレッジになります。

ナレッジマネジメントの導入で失敗しやすいポイントは?

最も多い失敗は、ツール導入を目的化してしまうことです。

目的が曖昧なまま「とりあえず社内Wiki」を導入しても、使われないまま放置されるケースが後を絶ちません。導入前に「何のために」「誰が」「どう使うか」を明確にし、最初のコンテンツを準備してから公開することが成功の分かれ目になります。

もう一つの落とし穴は、運用ルールを決めないことです。誰が更新するか、古いナレッジをどう処理するかを決めておかないと、情報が陳腐化します。

中小企業でもナレッジマネジメントは必要?

中小企業こそナレッジマネジメントの効果が出やすい環境といえます。

少人数で業務を回す中小企業は、特定の担当者への依存度が高くなりがちです。その担当者が退職すれば、業務が立ち行かなくなるリスクも大きい。規模が小さいからこそ、属人化の解消は経営上の優先課題です。

肩肘張る必要はなく、高機能なツールは不要です。Excelやクラウドストレージでのドキュメント管理から始めても十分な効果が期待できます。

ナレッジマネジメントツールの選び方は?

自社の規模、目的、ITリテラシーに合ったツールを選ぶことが基本です。

大規模な組織であれば検索性やアクセス権限管理が充実したツール、小規模であれば操作がシンプルなツールが適しています。FAQの整備が主目的ならFAQ特化型、幅広いナレッジを扱うなら社内Wiki型といった使い分けも有効です。

導入前に無料トライアルで使い勝手を確認し、現場の担当者からフィードバックを得てから決定することを推奨します。

効果測定はどのように行う?

定量指標と定性指標の両面から測定します。

定量指標としては、ナレッジベースの利用回数、問い合わせ件数の推移、新人の立ち上がり期間などが測定しやすいポイントです。定性指標としては、社員へのアンケートで「必要な情報を見つけやすいか」「業務がやりやすくなったか」を定期的に確認します。

KPIを設定し、四半期ごとにレビューする運用を取り入れると、改善サイクルが回りやすくなります。

まとめ

ナレッジマネジメントで成果を出すには、A社の事例が示すように、まず属人化の現状を把握し、退職・異動リスクの高い領域から優先的に言語化を進め、使われる仕組みとして運用に落とし込むという流れがポイントです。

初めの1週間は、自部門で「あの人しか知らない業務」を3つ洗い出すことから始めてみてください。1か月後には、その中の1つをフローチャートかチェックリストの形でドキュメント化することを目標にします。

小さな取り組みを積み重ねることで、属人化リスクの軽減や新人育成の効率化が実現し、組織全体の競争力強化にもつながっていきます。

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