ー この記事の要旨 ー
- アダプティブリーダーシップとは、ハイフェッツらが体系化した理論。手順や知識だけでは解けない適応課題に、当事者の考え方や行動の変化を促すリーダーシップ論です。
- 指示や仕組みを変えても現場が動かないなら、課題の種類を見直すことが出発点。手順で解ける問題と、考え方や関係の変化が必要な課題を見分け、関わり方を選びます。
- 記事では、4つの問いによる見分け方、観察・解釈・介入の進め方、反発への対応、理論の限界まで解説。職場で何を決め、何を当事者に返すかを考える手がかりになります。
アダプティブリーダーシップとは:「課題の種類」から関わり方を選ぶ理論
アダプティブリーダーシップ(適応型リーダーシップ)とは、手順や知識だけでは解けない「適応課題」に、当事者が考え方や行動を変えて取り組めるよう働きかけるリーダーシップ論で、ハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツらが体系化しました。
同校の教員紹介ページ(英語)によると、ハイフェッツは公共リーダーシップを教える上級講師で、精神医学の研修を修了した医師でもあります。この枠組みは、ハイフェッツがライリー・シンダー、マーティ・リンスキーと共同で開発したものと紹介されています。
要点は次の4つです。
- 関わり方を選ぶ起点は、リーダーの性格や指示のうまさではなく、課題の種類にある
- 1つの問題の中でも、やり方で解ける技術的な部分には答えを示し、当事者の考え方や行動が変わらないと進まない適応的な部分は当事者に返す
- 実践は、観察・解釈・介入の3段階を小さく回して進める
- 事故への初動など、安全の確保や急ぎの判断が要る場面では、先にリーダーが決める
「アダプティブ(適応的)」という語から、状況に合わせて臨機応変に振る舞うリーダーの柔軟さを指すと受け取られることがあります。この理論で考え方や行動を変えるのは、リーダー1人ではなく、課題を抱える当事者たちです。リーダーの仕事は、答えを示すことよりも、当事者が課題から目をそらさずに取り組める状態を保つことに置かれます。
この記事では、リーダーシップを役職ではなく、課題に向き合うよう周りに働きかける行為として扱います。役職としてのリーダーとマネージャーの役割の違いは、関連記事『リーダーシップとマネジメントの違いとは?』で詳しく解説しています。
職場でこの理論を使うときに最初に決めるのは、自分のリーダーとしてのスタイルではなく、目の前の課題がどちらの種類かです。考え方の変化が要る課題に手順や指示だけで応じると、対策を打っても同じ問題が戻ってきます。反対に、手順で解ける問題まで当事者に考えさせると、決めれば済むことが進みません。課題の種類を見分けてから関わり方を選ぶという順序が、この理論を使うときの判断軸です。
技術的問題と適応課題の違いと見分け方
職場の問題が「やり方で解ける問題」なのか、「考え方を変えないと解けない課題」なのかは、解決策がどこにあるかで見分けます。ハイフェッツらはこの2つを technical な課題と adaptive な課題として区別しており、この記事では前者を技術的問題、後者を適応課題と呼びます。
ハイフェッツとローリーが1997年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表し、2001年に再掲された論考「The Work of Leadership」(英語の論考)は、適応課題の解決策は経営陣の手元ではなく、あらゆる階層の社員の知恵の中にあると述べています。論考はさらに、適応的な変化は当事者にとって苦痛を伴うものであり、人々は新しい役割や関係、価値観、行動、仕事の進め方を身につけなければならないと指摘しています。同じ論考は、リーダーは答えを出す役ではなく、難しい問いを投げかける役だとしています。職場で「正解のない問題」と言われるものに近いのは、適応課題のほうです。
2つの違いを、論考の主張をもとにこの記事で整理すると次のようになります。
| 見る点 | 技術的問題 | 適応課題 |
| 解決策のありか | 専門家やマニュアル、権限のある人がすでに持っている | 当事者の考え方や行動の変化の中にある |
| 取り組む人 | 解決策を知っている人 | 課題を抱える当事者自身 |
| リーダーの役割 | 答えを示し、手順を決める | 問いを投げ、当事者が取り組む場を保つ |
技術的問題でも原因を調べる手間がかかることはあり、適応課題でも詳しい人の知識は助けになりますが、適応課題は当事者の考え方や行動が変わらないと解けません。
適応的な部分を見分ける4つの問い
適応的な部分を見落とさないための手がかりとして、次の4つの問いを確かめます。問いは、ハイフェッツらの論考をもとに、この記事で職場向けに整理したものです。
- 必要な知識や手順を、社内外の誰かがすでに持っているか
- 同じ対策を打っても、しばらくすると元に戻るか
- 解決するには、誰かがこれまで大事にしてきたやり方や役割、優先順位を手放す必要があるか
- 誰かが答えを決めても、当事者が納得しないと実行されないか
問いの答えは、次のように使います。
- 1つ目だけが当てはまる部分は、技術的な部分として、知っている人が先に答えを出して進めます。
- 2つ目から4つ目のどれかが当てはまる部分は、適応的な部分を疑う手がかりですが、対策そのものが合っていなかっただけでも元に戻ることはあるので、手直しで解ける原因が残っていないかもあわせて確かめます。
- どれにも当てはまらない部分は、まず答えを調べて対策を打つ側に置き、元に戻るかどうかを見て置き場所を決めます。
説明のための架空の例で確かめます。会議資料の様式がそろっていないだけなら、テンプレートを決めて配れば済む技術的問題です。様式を決めても、しばらくすると各自の書き方に戻るなら、2つ目が当てはまり、適応的な部分を含んでいるかもしれません。このように、1つの問題に技術的な部分と適応的な部分が混ざっていることもあります。
同じ形は、生成AIのツールを業務に取り入れる場面でも考えられます(これも説明のための例です)。操作の手順は研修で教えられても、どの仕事をAIに任せ、何を自分の判断として残すかは一人ひとりの仕事の進め方が変わる話なので、手順を配るだけでは決まりません。
取り違えたときに起きること
ハイフェッツとローリーの論考は、「ビジョンを示して人をそろえる」という広く知られたリーダーシップ観そのものが、適応的な状況を技術的なものとして扱っていると指摘しています。
ビジョンを示して人をそろえるやり方を職場に当てはめると、考え方の変化が要る課題にリーダーが答えを示しても、当事者にとっては「上が決めたこと」のままです。手順は守られても、もとのやり方を大事にする理由が残っているので、しばらくすると元に戻ります。4つの問いの2つ目で「しばらくすると元に戻るか」を確かめるのは、答えを示すだけでは当事者の考え方が変わらないためです。
逆向きの取り違えもあります。答えのある技術的問題まで当事者に考えさせると、決めれば済むことに時間がかかり、メンバーにはリーダーが判断を避けているように映ります。どちらの取り違えも、課題の種類を見分ける前に関わり方を決めたことから起きます。
指示型・SL理論・オーセンティックリーダーシップとの違い
アダプティブリーダーシップと他のリーダーシップの考え方を分けるのは、関わり方を変える基準を何に置くかです。次の表は、それぞれの考え方を「関わり方を決める基準」を軸に簡略に並べたもので、各理論の全体像を示すものではありません。
| 考え方 | 関わり方を決める基準 | 向いている問い |
| 指示型(トップダウン) | リーダーが持っている答え | 答えがわかっている問題を、どう速く進めるか |
| 状況対応型リーダーシップ(SL理論) | 部下の成熟度(その仕事への能力と意欲) | この部下に、どこまで任せるか |
| オーセンティックリーダーシップ | リーダー自身の価値観や自分らしさ | 自分はどんな考えで人を率いるか |
| アダプティブリーダーシップ | 課題の性質 | この問題は、誰の考え方が変わると解けるか |
指示型が力を発揮するのは、技術的問題です。答えを持っている人が決めて進めるほうが、早く確実に片づきます。
混同されやすいのはSL理論です。どちらも「状況に応じて関わり方を変える」点は似ていますが、SL理論が見るのは部下の状態で、アダプティブリーダーシップが見るのは課題の状態です。リンク先の Center for Leadership Studies のページ(英語)では、その仕事への能力と意欲の組み合わせを Performance Readiness と呼んでいます。同じ部下に対しても、技術的問題では手順を示し、適応課題では問いを返す、という使い分けになります。部下の成熟度に合わせて任せ方を変えたい場合は、関連記事『SL理論とは?』を参照してください。
オーセンティックリーダーシップは、リーダー自身がどうあるかに軸を置く考え方です。アダプティブリーダーシップは、リーダーの人柄よりも、課題に人がどう向き合うかを扱います。2つは対立するものではなく、問いを向ける対象が違います。
アダプティブリーダーシップの実践:観察・解釈・介入の3段階
3つの段階は一方向に進んで終わるのではなく、介入したあとに相手の反応を見て、また観察に戻ります。
この記事では、ハイフェッツらの考え方をもとに、適応課題への取り組みを観察・解釈・介入の流れに整理しています。どの段階にいるかで、職場でとる行動が変わります。
土台にしたのは、論考「The Work of Leadership」が挙げる6つの原則と、その説明に出てくる考え方のうちの4つ、バルコニーに立つこと、緊張の調整、安全な器(holding environment)、作業回避への対抗です。観察の段階で1つ目を、介入の段階で残りの3つを使います。解釈の段階は、6つの原則のうち「適応課題を見極める」に当たります。論考の本文は転載版で読めます(英語。HBR 1997年1・2月号の論考の転載です)。6つの原則の一覧は、よくある質問の「アダプティブリーダーシップの6つの原則とは何ですか?」の表にまとめています。
観察する:バルコニーに立って全体を見る
ハイフェッツとローリーの論考は、試合全体を上から見渡すように、目の前のやりとりから離れてパターンを見ることを、最初の原則に置いています。これを「バルコニーに立つ」と表現しています。バルコニーに立つことは、現場から離れたままでいることではありません。論考は、目の前の現場とバルコニーを行き来する力が欠かせないとしています。
職場では、会議の中で「誰が何を言ったか」より、「どの話題になると発言が止まるか」「同じ議論が何度目か」に目を向けます。発言の中身ではなく、繰り返されるパターンをつかむのが観察の段階です。
解釈する:何が変わらないと解けないのかを言葉にする
観察したパターンには、技術的な説明(手順が足りない、情報が届いていない)と、適応的な説明(誰かが大事にしてきたものが脅かされている)の両方を立ててみます。解釈は1つに決めず、仮説として複数持っておくのがこの段階の進め方です。ここで4つの問いを当てると、どちらの説明が強いかを判断できます。
課題の背後にある構造を掘り下げる具体的な手順は、関連記事『システム思考とは?』にまとめています。
介入する:緊張を保ちながら、課題を当事者の手元に置く
ハイフェッツとローリーの論考は、リーダーがつくる場を holding environment と呼び、圧力鍋のたとえで、リーダーが圧力を調整する役割を説明しています。この記事では、この場を「安全な器」と訳します。
人は緊張に圧倒されると新しいやり方を学べないため、論考は、学びが進む程度の緊張を保つことを求めています。これが緊張の調整です。さらに論考は、人は課題から目をそらす行動(作業回避)で早く元の落ち着きを取り戻そうとするので、リーダーは注意をそらすものに対抗する必要があると述べています。
安全な器、緊張の調整、作業回避への対抗の3つを職場の行動に置き換えると、次のようになります。置き換えは、この記事での例です。
- 安全な器:話し合いの前に、反対意見を出しても評価に響かないことを約束する
- 緊張の調整:論点が多すぎて場が固まったら、その回に決めることを1つに絞る。誰も困っていないように見えるときは、課題を放置した場合に何が起きるかを共有する
- 作業回避への対抗:話題が別の問題や特定の人の批判にそれたら、元の問いに戻す
同じ働きかけでも、受け止め方は相手や場によって変わり、負担を和らげるつもりの働きかけがかえって圧力になる場合もあります。強い反発や萎縮が見えたら、働きかけの強さや進め方を見直します。働きかけたら相手の反応を観察に戻し、観察・解釈・介入を一度で終えずに小さく回します。
職場での実践:適応課題に取り組む3つの手順
職場での実践は、問題を分ける、線引きを伝える、反発に向き合う、の3つの手順で進めます。
問題を2列に書き分ける
まず、実際に困っている問題を1つ選び、左の列に「やり方で解ける部分」、右の列に「考え方や関係が変わらないと解けない部分」を書き出します。どちらの列に置くかは、4つの問いへの答えをもとに決めます。
説明のための架空の例として、「新しい情報共有ツールを入れたのに、チームで使われていない」場合を2列に分けてみます。
| やり方で解ける部分 | 考え方や関係が変わらないと解けない部分 |
| 操作がわからない人がいるので、手順書をつくる | 口頭やメールで済ませてきた人が、記録を残すことに意味を感じていない |
| 通知が多すぎるので、設定を見直す | 書き込むと、上司に細かく見られると感じている人がいる |
左の列は、知っている人が決めてすぐに進めます。右の列に入る部分だけを、当事者と一緒に考える課題として扱います。
2列の下には、右の列について次に試す働きかけを1つと、その後に確かめる変化(発言、行動、決め方のどれが変わったか)を1行ずつ書き足します。こうしておくと、このメモがそのまま観察・解釈・介入を回す記録になります。
線引きを先に言葉にする
適応課題に取り組むときは、何を自分が引き受け、何を当事者に返すのかを、話し合いの最初に伝えます。ハイフェッツとローリーの論考の6つの原則にも、「仕事を当事者に返す」(Give the Work Back to People)が入っています。返すのは右の列の部分だけで、左の列まで返すわけではありません。
情報共有ツールが使われない例で伝えるなら、次のような言い方になります(説明用の例文です)。
「ツールの設定と操作の手順は私が決めて、今週中に配ります。そこから先の、日々のやりとりをどこまでツールに移すかは、使う皆さんで決めてほしいと考えています。次の定例で、困っていることを聞かせてください。」
自分が決める部分を先に示しておくと、返された側も「丸投げされた」とは受け取りません。
ハイフェッツとローリーの論考は、企業の例としてオランダのKPMGを紹介しています。1994年、同社の会長は、手がけてきた分野では成長の機会が限られていることを戦略上の課題と捉えました。そこで、パートナーとパートナー以外の社員を合わせた100人を日常の業務から外し、約4か月にわたって勤務時間の6割をこの課題に充ててもらっています。この記事では、経営陣が答えを用意するのではなく、課題そのものを多くの社員に渡した例として紹介します。
反発や先送りが出たら、失うものを聞いて元の問いに戻す
適応課題では、変化によって、これまで大事にしてきた役割ややり方を失うと感じた人が反発することがあります。反発は、相手が何を失うと感じているのかを知る手がかりとして扱います。ただし、反発の理由が施策の不備や負担の増え方、説明の足りなさにあるなら、施策や進め方のほうを直します。
反発が出たら、まず「変えると、何が困りますか」と聞き、失うと感じているものを言葉にしてもらいます。そのうえで、変えない部分をはっきり示します。「また今度にしましょう」という先送りには、次に話す日と、そのとき扱う問いを1つ決めて応じます。話題がそれたときに元の問いへ戻すのは、介入の段階で触れた作業回避への対抗と同じ動きです。
表に出た対立を整理する具体的な手順は、関連記事『コンフリクトマネジメントとは?』にまとめています。
アダプティブリーダーシップが向かない場面と理論の限界(デメリット)
アダプティブリーダーシップは、どの問題にも同じように当てはめるものではありません。答えを当事者に返す関わり方は、次の2つの場面では先に選びません。
- 技術的問題そのもの:知っている人が答えを出せば済む問題は、指示と手順で片づけます。
- すぐに決めて動く必要がある場面:事故への初動、被害の広がりを急いで止める必要があるクレームへの対応、法令で手順が決まっている手続きでは、まずリーダーが決めます。背景にある適応的な部分は、落ち着いてから扱います。
チーム内の信頼が崩れ、意見を出すこと自体が危ないと受け取られる状態では、理論を捨てるのではなく、取り組む順序を変えます。先に話し合える関係を整え、そのあとで適応的な部分に向き合います。チームの立て直し方は、関連記事『チーム崩壊からの立て直し方は?』にまとめています。
理論の側にも限界があります。この記事が主に参照したハイフェッツとローリーの論考は、企業の事例などをもとに考え方を示したもので、効果を測った実証研究ではありません。この理論は、成果を約束する手法としてではなく、課題に合った関わり方を選ぶための見取り図として使うのが現実的です。
アダプティブリーダーシップの学び方:書籍・番組・講座・研修
学ぶ手段は、理論の骨組みを知りたいのか、職場での実践に寄せたいのかで選びます。
- 理論の骨組みを短く知りたい場合:論考「The Work of Leadership」が入り口になります。全文は転載版(英語)でも読めます。日本語では、ハイフェッツとローリーの論文「リーダーシップの新しい使命」を収めた『リーダーシップの教科書』(ダイヤモンド社、2018年)があります。
- 実践に寄せて学びたい場合:『最難関のリーダーシップ』(水上雅人訳、英治出版、2017年)は、ハイフェッツ、グラショウ、リンスキーが2009年に出した The Practice of Adaptive Leadership の邦訳です。
- 理論の原点にさかのぼりたい場合:1994年の Leadership Without Easy Answers には、邦訳『リーダーシップとは何か!』(幸田シャーミン訳、産能大学出版部、1996年)があります。
- ほかの著書も探したい場合:2002年にはリンスキーとの共著 Leadership on the Line も刊行され、2017年に改訂版が出ています。邦訳は『[新訳]最前線のリーダーシップ』(野津智子訳、英治出版、2018年)です。
- 講義の雰囲気をつかみたい場合:2013年秋にNHK Eテレで放送された「リーダーシップ白熱教室」(全6回)は、ハイフェッツの講義を取り上げた番組です(放送の時期と回数は長崎大学のポスター(PDF)による)。
- オンラインで学びたい場合:HarvardX の Exercising Leadership: Foundational Principles(2020年)と、2026年1月に始まった Harvard Online の Adaptive Leadership: Practical Strategies for Change があります(いずれもリンク先は英語)。講座の年と開始時期は、ハイフェッツの教員紹介ページの記載によります。受講の形式や費用などの詳細は、各講座のページで確かめてください。
- 研修を選ぶ場合:説明やカリキュラムに、技術的問題と適応課題の区別が出てくるか、受講者が自分の職場の課題を持ち込んで考える場があるかを確かめます。この2点は、ここまで見てきた理論に沿った研修かどうかを見分ける手がかりになります。
よくある質問
適応型リーダーシップとアダプティブリーダーシップは同じものですか?
ハイフェッツの adaptive leadership の訳語として「適応型リーダーシップ」と書かれている場合は、同じものです。一方で、ミネルバ式のリーダーシップ研修でも「適応型リーダーシップ」という語が使われています。ASCII.jpの記事によると、こちらは、刻々と変わる状況に合わせて自分の意識や行動を変えながら、チームの前進に前向きな影響を及ぼす力と定義されています。リーダーシップを発揮する人自身の意識や行動の変化を軸にしている点で、当事者の変化を扱うハイフェッツの理論とは別の定義です。本や研修を選ぶときは、説明にハイフェッツや適応課題が出てくるかで見分けます。
役職がなくても実践できますか?
ハイフェッツとローリーの論考は、「上からでも下からでも、権限があってもなくても」(from above or below, with or without authority)、リーダーは人々を課題に向き合わせる必要があると書いています。6つの原則にも、組織の下の立場から上がるリーダーシップの声を守ることが含まれています。
国内では、小林由佳らが2021年に『産業医学レビュー』で、「権限によらないリーダーシップ」に注目して適応型リーダーシップと共有型リーダーシップを検討した文献レビューを発表しています。事例の検討からは、どちらも産業保健の専門職の日常業務で発揮でき、課題の解決に有効になりうると示されました。対象は産業保健の専門職で、一般の職場での効果を測ったものではありません。
そのうえで職場に当てはめると、問題を2列に書き分けることや、会議で元の問いに戻すことは、役職がなくてもできる行動です。決める権限が要る左の列の部分は、権限のある人に渡します。チーム全体でリーダーシップを分け合う形にしたい場合は、関連記事『シェアドリーダーシップとは?』を参照してください。
答えを示さないと、頼りなく見えませんか?
答えを示さないのは、適応的な部分だけに絞ります。手順で解ける部分は自分で決めてすぐに進め、そのうえで「ここから先はみんなで決めたい」と返すと、判断を避けているのではなく、決める場所を分けていると伝わります。問いを返すときに、いつまでに、どうやって決めるかを添えておくと、投げっぱなしとも受け取られません。
働きかけて反発されたら、どうすればいいですか?
まず「変えると、何が困りますか」と聞き、失うと感じているものを言葉にしてもらいます。そのうえで、強い反発や萎縮が見えたら、働きかけの強さや進め方を見直します。反発の理由が施策の不備や負担の増え方にあるときは、施策のほうを直します。
職場の問題が適応課題かどうかは、どう見分けますか?
まず問題に4つの問いを当て、その答えをもとに、やり方で解ける部分と、考え方や関係が変わらないと解けない部分の2列に書き分けます。対策を打っても元に戻る部分は、対策そのものの不備がないかを確かめたうえで、誰かが大事にしてきたものを手放す必要や、当事者の納得が要るかを確かめます。1つの問題に両方が混ざることもあるので、結果を見ながら置き場所を決め直します。
アダプティブリーダーシップの6つの原則とは何ですか?
ハイフェッツとローリーの論考は、次の6つを原則に挙げています。
| 原則(英語) | この記事での訳 | この記事で扱う箇所 |
| Get on the Balcony | バルコニーに立つ | 観察する:バルコニーに立って全体を見る |
| Identify the Adaptive Challenge | 適応課題を見極める | 技術的問題と適応課題の違いと見分け方、解釈する |
| Regulate Distress | 緊張を調整する | 介入する(緊張の調整) |
| Maintain Disciplined Attention | 規律ある注意を保つ | 介入する(作業回避への対抗) |
| Give the Work Back to People | 仕事を当事者に返す | 職場での実践(線引きを先に言葉にする) |
| Protect Voices of Leadership from Below | 下からのリーダーシップの声を守る | よくある質問(役職がなくても実践できますか?) |
論考は、6つのうちバルコニーに立つことを、残りの5つを実行するための前提と位置づけています。
まとめ
アダプティブリーダーシップは、ハイフェッツらが体系化した、適応課題に当事者が取り組めるよう働きかけるリーダーシップ論です。使うときに最初に決めるのは自分のスタイルではなく課題の種類で、手順で解ける部分まで当事者に返すと、かえって判断を避けているように見えます。技術的な部分は自分で決め、考え方や関係が変わらないと解けない部分だけを返す、という線引きがこの理論の使いどころです。
今週のうちに試すなら、課題を2つに分けるところから、次の3つの順で始めます。
- 抱えている問題を1つ選び、4つの問いを当てて、元に戻っていないか、誰が何を手放す必要があるかをメモする
- 問いの答えをもとに、やり方で解ける部分と、考え方や関係が変わらないと解けない部分の2列に書き分ける
- 次の話し合いの冒頭で、自分が決める部分と当事者に返す部分を言葉にして伝える
適応課題に向き合うチームを支えるための実践記事
答えのない課題に向き合うほど、周囲の反発や停滞に手が止まりやすくなります。いまのチームの状態に近い1本を選び、次に打つ手を具体化してください。
- チーム崩壊からの立て直し方は?再建への5ステップ
信頼が崩れたチームを5ステップで立て直す実務手順 - デリゲーションとは?丸投げとの違いと権限委譲の基本
どこまで任せるか迷うときの判断権限の委譲手順 - タックマンモデルとは?チームの5段階と各期の進め方
混乱期など5段階のどこにチームがいるかを見立てる判断軸 - 良い上司とは?特徴と悪い上司との違い
叱る・任せる場面で上司としての振る舞いを見直す判断軸 - フォロワーシップとは?5つのタイプと職場での活かし方
部下の立場からチームの成果に関わるフォロワーシップの実践手順

