心理的安全性とは?ぬるま湯との違いと正しい高め方

心理的安全性とは?ぬるま湯との違いと正しい高め方 組織開発

ーこの記事で分かることー 

  1. 心理的安全性とは、チーム内で率直な発言や質問ができる状態を指し、正しく理解すれば組織の生産性とエンゲージメントを大きく左右する概念です。
  2.  本記事では「ぬるま湯組織」との本質的な違いを明らかにしたうえで、リーダーとメンバーそれぞれの立場から実践できる具体的な高め方を5つの行動として整理しています。 
  3. 測定・診断の観点もあわせて紹介するので、自分のチームの現状把握から改善アクションまでを一気通貫で進められます。

心理的安全性とは|定義と注目される理由

心理的安全性とは、チームの中で自分の意見や疑問を率直に伝えても、拒絶されたり罰せられたりしないと感じられる状態です。

「会議で的外れな質問をしたら評価が下がるかもしれない」「ミスを報告したら叱責されるかもしれない」。こうした不安を抱えたまま働いた経験は、多くのビジネスパーソンにあるのではないでしょうか。この不安こそが心理的安全性の核心に関わるテーマであり、組織の成果やメンバーの成長を左右する要因として、近年とりわけ注目を集めています。

なお、チームが形成期から機能期へと成長する段階的なプロセスについては、関連記事『タックマンモデルとは?』で詳しく解説しています。本記事では「心理的安全性」の定義と実践的な高め方に焦点を当てて解説します。

エドモンドソン教授による定義と4つの対人リスク

チーム内で「対人リスクをとっても安全だ」と全員が信じている状態。これがハーバード大学の組織行動学者エイミー・エドモンドソン教授が1999年の論文で示した心理的安全性の定義です。

ここでいう「対人リスク」とは、職場で以下の4つのレッテルを貼られる恐怖を指します。

  • 無知だと思われる不安:基本的な質問ができない
  • 無能だと思われる不安:ミスや失敗を隠す
  • 邪魔だと思われる不安:新しい提案を控える
  • ネガティブだと思われる不安:問題点の指摘を避ける

注目すべきは、これらは個人の性格の問題ではなく、チームの環境が生み出す構造的な問題だという点です。どれほど優秀なメンバーでも、対人リスクを感じる環境では発言を自己検閲(自ら発言を控えること)してしまいます。

Googleプロジェクトアリストテレスが示した事実

「最高のチームに共通する条件は何か」。Googleがこの問いに本気で取り組んだのが、2012年から実施された社内研究「プロジェクトアリストテレス」です。180以上のチームを分析し、生産性の高いチームに共通する要素を探りました。

その結果、チームの成果を最も強く予測する因子は、メンバーの能力や経歴ではなく「心理的安全性」でした。優秀な人材を集めるだけではチームは機能せず、安心して発言できる風土があってはじめてメンバーの能力が引き出されるという結論は、多くの企業に衝撃を与えました。

心理的安全性とぬるま湯組織の決定的な違い

「うちのチームは雰囲気がいいから大丈夫」。実は、この感覚こそが最も見落とされやすい落とし穴です。居心地の良さは共通していても、心理的安全性が高い組織とぬるま湯組織では、成果と成長に決定的な差が生まれます。

心理的安全性を高めようとする取り組みが「なんでも許容する空気」に変質してしまうケースは少なくありません。この混同を防ぐために、両者の違いを構造的に理解しておく必要があります。

ぬるま湯組織に見られる3つの兆候

納期遅延が繰り返されているのに、誰もその原因を議題に上げない。メンバーは互いに気を遣い、「まあ仕方ないよね」と流してしまう。こうした組織には、「仲の良さ」と「指摘のしにくさ」が表裏一体になっているという共通点があります。

具体的には、以下の兆候が見られます。

  • 反対意見がほぼ出ない会議:合意が早いが、深い議論がない
  • ミスが繰り返される:指摘し合う文化がなく、同じ失敗が放置される
  • 目標の達成基準が曖昧:「頑張っている」ことが評価され、成果への厳しさがない

ここが落とし穴で、ぬるま湯組織のメンバーは「うちのチームは雰囲気がいい」と感じていることが多いのです。居心地の良さと心理的安全性を混同したまま、生産性の低下に気づけないパターンがよくあります。

心理的安全性が高いチームの行動パターン

「その方針には懸念があります」と会議で異論が出たとき、リーダーは「どういう観点で?」と掘り下げる。反対意見が歓迎されるからこそ、メンバーは遠慮なくリスクを指摘でき、結果として意思決定の質が高まる。これが心理的安全性の高いチームで日常的に見られる光景です。

エドモンドソン教授は、心理的安全性と「仕事の基準」を2軸で整理しています。心理的安全性が高く、仕事の基準も高い状態こそが「学習する組織」であり、心理的安全性が高くても基準が低ければぬるま湯になる。つまり、心理的安全性は「甘さ」ではなく「率直さを支える土台」と捉えるのが正確です。

仕事の基準が高い 仕事の基準が低い
心理的安全性が高い 学習する組織(目指すべき状態) ぬるま湯組織
心理的安全性が低い 不安とプレッシャーの組織 無関心な組織

心理的安全性が低い職場で起きること

「この進め方に違和感があるけれど、言い出せない」。そんな沈黙が常態化した組織では、メンバーが自分を守るために発言や行動を制限し、組織全体の生産性とイノベーションが停滞します。

発言・提案が消える組織の末路

新人が疑問を感じても質問せず、そのまま作業を進めてミスが発覚するのは納品直前。ベテランは改善案を思いついても「どうせ通らない」と口をつぐみ、既存の非効率なプロセスが温存される。こうした悪循環が続くと、組織は問題を早期に発見・修正する力を徐々に失っていきます。

正直なところ、発言が消える組織では離職率にも影響が出やすい傾向があります。優秀な人材ほど「自分の意見が反映されない環境」に見切りをつけるのが早いためです。

「対人リスク回避」が生産性を蝕むメカニズム

対人リスク(チーム内で否定・批判される恐れ)を感じると、人は無意識に自己防衛モードに入ります。

このとき脳は「安全を確保すること」にエネルギーを割くため、創造的な思考や問題解決に使えるリソースが減少します。会議で「何を言うか」より「どう思われるか」に注意が向いている状態は、認知的な負荷(脳の処理能力を圧迫する精神的コスト)が高く、生産性を明らかに押し下げます。

見落としがちですが、対人リスク回避は個人の問題ではなくチームの構造的な問題です。一人のメンバーが萎縮すると、周囲も「あの人も黙っているなら自分も」と同調し、沈黙が伝播していく。結果として、仮にチーム全体で1日30分ずつ「言いたいことを言えない時間」があるとすれば、5人チームで月に約50時間もの潜在的な議論やアイデア共有の機会が失われている計算になります。

心理的安全性の高め方|リーダーが実践する5つの行動

心理的安全性を高めるためにリーダーがすべきことは、失敗の扱い方を変える、問いかけを習慣化する、感謝とフィードバックを組み合わせる、1on1で聴く比率を意識する、自分の弱みを先に開示する、の5つです。それぞれ具体的に見ていきます。

なお、信頼と挑戦を両立させるリーダーシップの考え方については、関連記事『セキュアベースリーダーシップとは?』も参考になります。

失敗を学習機会として扱う

あるIT企業の開発チームで、リリース後に重大なバグが発覚した場面を想像してください。リーダーが「誰のせいだ」と原因追及を始めれば、次から誰もリスクのある実装を提案しなくなります。

一方、「何が起きたか全員で振り返ろう。再発防止のために何を変えられるか」と切り出せば、メンバーは安心してミスの経緯を共有できます。ポイントは、失敗した「人」ではなく「プロセス」にフォーカスすること。週次の振り返りミーティングに「今週の学び」という議題を固定枠で設けるだけでも、失敗を隠さない文化の醸成が進みます。

意見を引き出す問いかけを習慣化する

会議で「何か意見はありますか?」と聞いて沈黙が返ってくる。この場面、質問の仕方に原因があるケースがほとんどです。

「この案の最大のリスクは何だと思う?」「もし自分が顧客だったら、どの点が引っかかる?」のように、具体的で答えやすい問いに変えるだけで発言のハードルは大きく下がります。大切なのは、意見を出した人に対して即座に否定や評価をしないこと。「なるほど、その視点はなかった」と一度受け止める習慣を徹底してみてください。

感謝とフィードバックをセットにする

率直に言えば、「心理的安全性があるからこそ厳しいフィードバックが可能になる」という順番を間違えているリーダーは多いです。

まず感謝や承認を日常的に伝え、信頼の土台を築いたうえで改善点を伝える。たとえば、「〇〇さんの調査資料のおかげで議論が具体的になった。一方で、結論部分をもう少し簡潔にすると、意思決定がさらに早くなると思う」のように、貢献への感謝と改善提案を1セットにする形式が実務では成果を出しやすい傾向があります。

1on1で「聴く7割・話す3割」を守る

1on1ミーティングを実施している企業は増えていますが、リーダーが一方的に指示や評価を伝える時間になっていては意味がありません。

目安として「聴く7割・話す3割」のバランスを意識するのがおすすめです。具体的には、最初の5分で相手に最近の仕事の感触を自由に話してもらい、リーダーは相づちと質問に徹する。「最近、チームの中で気になっていることはある?」「何か困っていることはない?」といったオープンクエスチョンを起点にすると、メンバーの本音が引き出されやすくなります。

自分の弱みを先に開示する

メンバーに「安心して失敗を共有してほしい」と伝えるより、リーダー自身が先に弱みを見せるほうがはるかに効力を発揮します。

「実は先週の判断、もう少し慎重に検討すべきだったと反省している」「この分野は正直あまり詳しくないので、みんなの知見を借りたい」。こうした自己開示が、チーム内の「失敗しても大丈夫」という空気を具体的につくります。ここがポイントですが、自己開示は「弱みを見せること」ではなく「学ぶ姿勢を示すこと」として機能します。

【ビジネスケース】

ある企業のシステム部門で、入社5年目の鈴木さんがチームリーダーに昇格した。着任直後、週次定例会議でメンバーの発言がほぼゼロという状況に直面する。鈴木さんはまず、自分から「先週の判断で迷った点」を毎回冒頭で共有し始めた。次に、議題ごとに「この案の弱点はどこだと思う?」と具体的に問いかける形式に変更。3週間後、最も寡黙だったメンバーから初めてリスク指摘が上がり、結果としてリリース前にバグを1件防ぐことができた。さらに月1回の1on1を導入し、聴く時間を7割以上に設定したところ、2か月後にはメンバーからの自発的な改善提案が月3件以上出る状態に変化した。

※本事例は心理的安全性の構築プロセスを示すための想定シナリオです。

【業界・職種別の活用例】

IT開発チーム:スクラムのレトロスペクティブ(振り返り会)に「今スプリントで学んだ失敗」を固定議題として追加し、障害報告のハードルを下げる。

経理・バックオフィス部門:月次決算プロセスで「ヒヤリハット報告」を制度化し、簿記2級レベルの基礎知識確認と合わせてミスの早期発見体制を構築する。

メンバーの立場からできる心理的安全性への貢献

心理的安全性の構築はリーダーだけの仕事ではなく、メンバー一人ひとりの日常的な行動が土台をつくります。

小さな同意と反応で発言を後押しする

誰かが勇気を出して意見を言ったとき、周囲の反応が薄いと「やっぱり言わなければよかった」と感じてしまいます。

実務では、うなずき、「いいですね」「それ気づかなかった」といった短い反応だけで、発言者の心理的負担は大幅に軽減されます。特にオンライン会議では表情が読み取りにくいため、チャット欄でのリアクションや声に出しての相づちを意識的に増やすと、発言の連鎖が生まれやすくなります。

建設的な異論の伝え方

「反対です」と言うのはハードルが高くても、「別の視点から補足していいですか」「ひとつ気になる点があるのですが」という切り出し方であれば、相手との関係性を損なわずに異論を伝えられます。

意外にも、建設的な異論は心理的安全性を「壊す」のではなく「強化」します。多様な視点が歓迎される体験をチームが積み重ねることで、「ここでは何を言っても大丈夫」という信頼がさらに深まるためです。異論を伝えるときは「事実+影響+提案」の3点セットを意識すると、感情的な対立を避けやすくなります。

チーム全体で率直な意見交換を促進するアプローチについては、関連記事『チーミングとは?』も参考になります。

心理的安全性を測定・診断する視点

心理的安全性の改善には、まず現状を可視化し、どこに課題があるかを特定することが出発点になります。

エドモンドソンの7つの質問項目

「自分のチームの心理的安全性は高いのか、低いのか」。この判断を感覚に頼らず行うために、エドモンドソン教授が開発した測定尺度が広く活用されています。7つの質問で構成され、代表的な項目は以下のとおりです。

  • このチームでミスをすると、たいてい非難される(逆転項目)
  • このチームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
  • このチームでは、自分と異なる意見を持つことが認められている
  • このチームでリスクのある行動をとっても安全だと感じる
  • このチームの他のメンバーに助けを求めることは難しい(逆転項目)

各項目を5段階または7段階で回答するサーベイ形式が一般的です。ただし押さえておきたいのは、数値の絶対値よりも「どの項目のスコアが低いか」に注目する方が改善アクションにつなげやすいという点です。

サーベイ結果を改善につなげるポイント

せっかくサーベイを実施しても、結果を眺めて終わりになるケースは実務でよくあるパターンです。形骸化させないために、結果は必ずチーム全員にオープンに共有し、「何が低かったか」「なぜ低いと思うか」を対話する場を設けてみてください。

具体的には、四半期に1回のサーベイ実施と、結果共有のワークショップをセットで運用するのが現実的です。スコアが前回より下がった項目について「直近3か月で何が変わったか」をメンバーと一緒に振り返ると、抽象的なスコアが具体的な改善テーマに変わります。

よくある質問(FAQ)

心理的安全性が低い職場にはどんな特徴がある?

会議での発言が特定の人に偏り、質問や異論がほとんど出ない状態が典型的です。

メンバーがミスを隠す、報告が遅れる、新しい提案が出ないといった兆候が複数見られる場合、対人リスクへの不安がチームに広がっている可能性があります。

まずは「最近、会議で反対意見が出たのはいつか」を振り返ってみると、状況を客観的に把握しやすくなります。

心理的安全性が高いとパフォーマンスは本当に上がる?

心理的安全性はチームの学習行動を促進し、結果としてパフォーマンス向上に寄与します。

Googleのプロジェクトアリストテレスをはじめ、複数の研究がチームの成果との正の相関を報告しています。ただし、心理的安全性だけでは不十分で、明確な目標と高い仕事基準との組み合わせが不可欠です。

「安心して発言できる環境」と「成果へのコミットメント」の両立を意識してみてください。

心理的安全性とぬるま湯の見分け方は?

チーム内で率直な指摘や異論が日常的に交わされているかどうかが判断基準です。

心理的安全性が高い組織では反対意見が歓迎され、建設的な議論が活発に行われます。一方、ぬるま湯組織では表面的な和やかさがあっても、本音の指摘や厳しいフィードバックは避けられがちです。

会議で「この案のリスクは?」と問いかけたときの反応が、判断材料のひとつになります。

リーダーが心理的安全性のために最初にやるべきことは?

リーダーがまず取り組むべきは、自分自身の失敗や迷いをチームに開示することです。

「完璧なリーダー」を演じるほどメンバーは萎縮します。リーダーが率先して弱みを見せることで、「このチームでは失敗しても大丈夫」というメッセージが行動で伝わります。

週次ミーティングの冒頭5分で「今週の反省」を共有する習慣から始めるのが取り組みやすい方法です。

心理的安全性を高める取り組みが形骸化するのはなぜ?

形骸化の主因は、リーダー自身の行動が伴っていないことです。

たとえば「何でも言ってね」と宣言しても、実際に異論が出たときに不機嫌な態度を取れば、メンバーは二度と発言しなくなります。制度やルールではなく、日々のリーダーの反応こそがチームの空気を決定づけます。

導入後3か月間は、リーダーが意識的に「意見を受け止める姿勢」を見せ続けることが定着のカギを握ります。

まとめ

心理的安全性を組織の力に変えるには、鈴木さんの事例が示すように、リーダーの自己開示から始め、具体的な問いかけで発言を引き出し、感謝とフィードバックを日常に組み込むという流れが鍵です。ぬるま湯との違いは「率直な指摘が交わされているかどうか」に集約されます。

最初の2週間は、週次ミーティングの冒頭で「自分の反省点」を1つ共有し、1on1では聴く時間を7割以上に設定するところから試してみてください。小さな変化でも、3か月続ければチームの発言量は目に見えて変わります。

日々の問いかけと傾聴の積み重ねが、メンバーの主体性を引き出し、チーム全体の生産性向上とイノベーション創出を後押しします。

タイトルとURLをコピーしました